ジュエリー撮影で「全体にピントが合わない」のは腕のせいではありません。マクロレンズの物理的限界と、プロが使う"深度合成"という選択肢。
「せっかく高いマクロレンズを買ったのに、指輪の石にピントを合わせるとリングの腕がボケる」 「ネックレスのチェーン全体をクッキリ見せたいのに、どうしても手前しか合わない」
今、カメラを前に頭を抱えているあなた。 正直にお伝えします。それはあなたの撮影技術が未熟だからではありません。
物理的に、無理なんです。
驚かれましたか? でも、これが光学の現実です。 ジュエリーのような小さな被写体に近づけば近づくほど、ピントが合う範囲(被写界深度)は紙のように薄くなります。どんなに高価な機材を使っても、レンズという物理法則の中にいる限り、このルールからは逃れられません。
では、我々プロはどうやってあの「隅々までピントの合ったカタログ写真」を撮っているのか。 魔法ではありません。手間と機材と、執念のような技術の積み重ねです。
今日は、ジュエリー撮影における「ピントの壁」をどう乗り越えるか、現場の裏側を包み隠さずお話しします。
F値を上げれば解決する、という大きな誤解

カメラの教則本には必ずこう書いてあります。「ピントの合う範囲を広げたければ、絞り(F値)を大きくしましょう」と。
確かに、F値をF2.8からF8、F11と絞っていけば、ピントの合う範囲は前後に広がります。 「じゃあ、F22とかF32まで思い切り絞れば解決じゃないか」と思いますよね?
実は、ここが落とし穴。 絞りすぎると、写真は逆に画質が劣化します。
これを専門用語で「回折現象(かいせつげんしょう)」、現場では「小絞りボケ」と呼びます。 レンズの中を通る光の道が狭くなりすぎて、光が回折し、画像全体がモヤっと眠たい印象になってしまうのです。特にジュエリーのような、金属の質感や宝石の輝き(エッジの鋭さ)が命の商材にとって、この解像度の低下は致命的。
つまり、
- 絞りを開ける → ボケて全体が見えない
- 絞りすぎる → 画質が悪くなり、輝きが失われる
このジレンマの中で、最適な「F11〜F13あたり」を探る。これが通常撮影の限界です。 それでも、指輪を斜め前から撮れば、手前の爪と奥の刻印、両方にピントを合わせることは、通常の一発撮りでは不可能です。
プロの常套手段「深度合成(フォーカススタッキング)」
では、どうするか。 ここで登場するのが、現在の商業写真、特にジュエリー撮影におけるスタンダード技術「深度合成(フォーカススタッキング)」です。
理屈は単純です。 「手前にピントが合った写真」「真ん中に合った写真」「奥に合った写真」……これを少しずつピント位置をずらしながら何枚も撮影し、後からPhotoshopなどのソフトで「ピントが合っている部分だけ」を切り抜いて合体させるのです。
「なんだ、合成か」と侮るなかれ。これを美しく仕上げるには、恐ろしくシビアな環境が必要です。
1. 1ミクロンのズレも許されない
合成素材となる写真は、画角が完全に一致している必要があります。 シャッターを押す振動でカメラが0.1ミリでも動けばアウト。
三脚は、床の振動さえ拾わない重量級のものが必要ですし、カメラに触れずに撮影するためのレリーズやPC接続(テザー撮影)が必須になります。
2. 照明の不変性
ピント位置をずらして10枚、20枚と連写している間、光の状態がわずかでも変わってはいけません。
定常光(LEDなど)を使う場合、部屋の蛍光灯がフリッカー(目に見えない点滅)を起こしていないか? 窓からの外光が入ってきていないか? ストロボを使うなら、全てのカットで光量が完全に一定でなければなりません。安いストロボだと、連写するごとに光量や色温度が微妙にバラつき、合成した瞬間に「色ムラ」となって現れます。
3. ブリージングという敵
レンズの構造上、ピント位置を変えると画角(写る大きさ)が微妙に変わる現象があります。これを「フォーカスブリージング」と言います。 これが発生すると合成ソフトが誤作動を起こし、指輪のエッジが二重になったり、不自然な滲みが出たりします。これを防ぐには、ブリージングの少ない高価なレンズを使うか、合成ソフト側での高度な補正スキルが求められます。
指輪1カットを仕上げるために、撮影で20枚、現像と合成で数十分。 これを商品点数分、繰り返す。 気が遠くなる作業ですが、あの「パンフォーカス(全体にピントが合った)」の写真は、こうして作られているのです。
アオリ撮影(ティルトシフトレンズ)の活用
もう一つの物理的な解決策として、「ティルトシフトレンズ(PCレンズ)」を使う方法があります。
通常のレンズは、カメラのセンサー面と平行にピント面が存在します。 しかし、この特殊なレンズは、レンズの前玉をグニャリと曲げる(ティルトさせる)ことで、ピントの合う面を「斜め」に設定できます。
例えば、斜めに置いたネックレスに対して、レンズも同じ角度で傾けることで、絞りを開けたままでも、手前から奥までピントを合わせることが可能になります。 これなら合成の手間はなく、画質の劣化も防げます。
しかし、このレンズは高額な上に、操作が極めてマニアックです。 「シャインプルーフの原理」という光学法則を理解し、ミリ単位でノブを調整しながらピントの山を探る作業は、職人芸に近い感覚が求められます。 慣れていないと、逆に「どこにもピントが合っていない」奇妙な写真が量産されることになります。
その「1カット」に何時間かけますか?

ここまで、技術的な解決策を提示しました。 機材を揃え、深度合成のスキルを習得すれば、社内でもプロ並みの写真は撮れるようになります。 可能か不可能かで言えば、可能です。
しかし、ここで一度、電卓を叩いてみてほしいのです。
例えば、新作のジュエリーが10点あるとします。 1点につき、メインカット、サイド、刻印のアップ、着用イメージなど、最低5カットは必要でしょう。計50カット。
深度合成を行う場合、1カットの撮影に(セッティング含め)15分、合成処理とレタッチに15分かかると仮定します。 1カット30分 × 50カット = 25時間。 つまり、丸3日以上の時間が「撮影だけ」に消える計算です。
ここに、高画素機、マクロレンズ、ティルトレンズ、堅牢な三脚、色評価ができるモニター、Photoshopのライセンス料……といった初期費用が加わります。
そして何より恐ろしいのは、「苦労して撮ったけれど、なんか売れそうに見えない」というリスクです。 ピントは合っている。でも、金属が黒ずんで見える、石が輝いていない。 これはライティングの問題ですが、深度合成の作業に忙殺されていると、肝心の「光の演出」にまで気が回らなくなることがよくあります。
時間は、企業にとって最も貴重なコストです。 その膨大な時間を、撮影という「作業」に費やすのが正解なのか。 それとも、商品企画や販促戦略といった「コア業務」に使うべきなのか。
もし、あなたが「効率」と「クオリティ」のバランスに悩んでいるなら、外部のリソースを使うことは、決して敗北ではなく、極めて合理的な経営判断です。
カタログスペックを極めるなら「物撮り.jp」

もし、あなたが求めているのが、 「ECサイトの商品ページ用に、細部までクッキリと見え、色も正確で、白背景の清潔な写真」 であるなら、迷わず「物撮り.jp」をご検討ください。
私たちは、先ほど説明した「深度合成」や高度なライティングを、システム化されたフローで効率的に行います。 ジュエリー特有の「写り込み」の処理や、石の輝かせ方を知り尽くした専門スタッフが、大量の商品でも均一なクオリティで仕上げます。
社内で3日かかる作業が、依頼して待っているだけで完了します。 しかも、1カットあたりの単価を見れば、担当者様が機材を揃えて残業するコストよりも、遥かに安く済むケースがほとんどです。 「正確に伝える」写真が必要なら、ここは我々の独壇場です。
ブランドの世界観を創るなら「フォトル」

一方で、 「SNSで流れてきた瞬間に指が止まるような写真が欲しい」 「ブランドの世界観を表現するために、背景や小物を使ったスタイリングが必要だ」 という場合は、「フォトル」が最適解です。
ここでは、単にピントが合っているかどうか以上の価値を提供します。 ジュエリーを身につけた時の高揚感や、生活に馴染む空気感。 それを表現するには、プロのスタイリストによる小物の選定や、光のニュアンスの設計が不可欠です。
先ほど「モデル」という言葉を避けましたが、人体の一部(手や首元)が入る着用イメージや、生活シーンを切り取ったような写真は、スペック説明の写真とは全く異なる技術が必要です。
フォトルでは、お客様のブランドイメージをヒアリングし、専属のクリエイターチームが「欲しくなる」ビジュアルを作り上げます。 これはもはや撮影代行ではなく、ブランディングのパートナーとして捉えていただいた方が近いかもしれません。
まとめ
ジュエリー撮影における「ピント問題」は、カメラの性能不足ではなく、光学的な物理現象です。
- マクロ撮影では被写界深度が極端に浅くなるのは必然。
- 絞りすぎると「回折現象」で画質が劣化するため、F値だけでは解決しない。
- 解決策は「深度合成」だが、撮影の手間と合成スキル、機材の安定性が必須。
- 「ティルトシフトレンズ」という手もあるが、扱いは職人芸。
- 社内で行う場合、膨大な時間コストと機材費がかかることを覚悟する必要がある。
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