バッグ撮影の「詰め物(アンコ)」正解はこれだ。プロが教える、革の表情を変える骨格形成術
目次
株式会社ピックアパートメントの篠原です。
春に向けた新作バッグの撮影シーズン、現場は戦場のような空気になっていることでしょう。 特にこの時期、メーカーの担当者様や革職人の方から悲鳴にも似た相談をよく受けます。
「バッグがへたって、どうしても貧相に見える」 「カタログで見ると、なぜか形が歪んで見える」 「中に入れるアンコの量がわからず、パンパンになってしまう」
正直に申し上げます。
バッグの撮影において、ライティングやカメラの設定以前に、最も重要なのは「アンコ(詰め物)による成形」です。これを疎かにしたままシャッターを切るのは、メイクをしていない俳優をステージに上げるようなもの。
しかし、多くの現場ではここを感覚でやってしまっている。
今日は、私が長年のスタジオワークで培ってきた「バッグを美しく見せるための物理的な正解」を、包み隠さずお話しします。
春商戦の明暗を分けるのは「バッグの中身」だという事実

なぜ、あなたの撮ったバッグは「新品」に見えないのか?
撮影現場でモニターを確認したとき、「実物はもっと高級感があるのに、写真になるとなぜか安っぽく見える」と感じたことはありませんか?
原因の多くは、重力です。
店頭に並んでいる状態と違い、撮影台の上に置かれたバッグは、強力なストロボの光を浴び、高解像度のレンズで微細なシワまで描写されます。
肉眼では気にならないわずかな「革のたるみ」や「重力による沈み込み」が、写真では「型崩れ=中古品のような劣化感」として強調されてしまうのです。
特に春物のバッグは、軽やかな素材感や淡い色味が多い。これらは影の落ち方一つで、形崩れが顕著にバレます。新品の商品を撮影しているはずなのに、写真からは「使用感」が漂ってしまう。これは致命的です。
「アンコ(詰め物)」はただの詰め物ではない。骨格形成手術だ。

多くの人が勘違いしています。「アンコ」を、単にバッグを膨らませるための詰め物だと思っていませんか?
実はこれ、逆なんです。 プロのカメラマンにとって、アンコ詰めは「骨格形成」そのものです。
人間の顔写真をレタッチで修正するように、バッグの内部から圧力をかけ、理想的なカーブ、直線のライン、そして革の張りを人工的に作り出す作業。
これを私たちは「スタイリング」と呼びますが、実態はもっと泥臭い「彫刻」に近い作業です。
ただ詰めればいいわけではありません。パンパンに詰めすぎれば、革が悲鳴を上げ、縫製ラインが歪み、「不自然な球体」のようなバッグになってしまいます。
逆に少なければ、シワが寄り、影が落ち、高級感が損なわれる。 この「適正なテンション(張り)」を見極める作業こそが、商品写真のクオリティを決定づけるのです。
現場で選ばれ続ける「アンコ」の正解と、絶対に使ってはいけない素材
新聞紙とプチプチが「素人っぽさ」を生む物理的な理由
もし、撮影現場に古新聞や、梱包用の気泡緩衝材(プチプチ)が散乱しているなら、今すぐ片付けてください。それらが「失敗写真」の元凶である可能性が高いです。
まず新聞紙。 インク移りのリスクは論外として、最大の問題は「硬すぎる」ことと「復元力のなさ」です。一度クシャッと丸めると、その形状で固まってしまい、バッグの内部でゴツゴツとした角を作ってしまいます。
これが革の表面に浮き出て、ボコボコとしたハイライトを生んでしまうのです。
次にプチプチ。 一見、弾力があって良さそうに見えますが、微調整が効きません。「あと数ミリ、ここを膨らませたい」という繊細なコントロールができないのです。
また、光を透過したり反射したりする性質があるため、薄手の生地のバッグだと内部で乱反射を起こし、変な色被りを起こすこともあります。
プロが「薄葉紙(ハクヨウシ)」を大量消費するワケ
では、我々は何を使っているか。 答えは「薄葉紙(ハクヨウシ)」一択です。新品のバッグや靴を買ったとき、中に入っているあの薄い白い紙です。
なぜ薄葉紙なのか。理由は3つあります。
- 密度調整の自在性: 丸め方次第で、カチカチの芯を作ることも、フワフワのクッションを作ることも可能です。
- 革への優しさ: 繊維が柔らかいため、内部から革を押し上げても、鋭利な「アタリ」が出ません。滑らかな曲線を内側から描くことができます。
- 光の拡散性: 白く薄いため、万が一透けても変な色がつかず、むしろ内部で光を柔らかく回してくれます。
私たちは、この薄葉紙を撮影のたびに大量に消費します。「もったいない」と感じるかもしれませんが、ここをケチると後でレタッチ作業に数時間のロスが発生します。紙代と人件費、どちらが高いかは明白でしょう。
素材の硬度とバッグの素材(革・ナイロン)の相性関係
バッグの素材によって、アンコの詰め方は変わります。
- 厚手のレザー(牛革など): かなり強めの圧が必要です。薄葉紙を硬く丸めた「芯」を作り、それを中心に配置し、周りを柔らかい紙で覆うような構造にします。革の反発力に負けない「骨」が必要です。
- ナイロン・キャンバス地: これらはシワになりやすいため、硬いアンコはNGです。薄葉紙を空気を含ませるようにふんわりと丸め、全体に均一な圧がかかるようにします。少しでも偏りがあると、生地がつっぱって歪んで見えます。
バッグを「彫刻」するための詰め物テクニック【実践編】

ここからは、具体的な手順を解説します。私が現場で行っているルーティンそのままです。
ステップ1:四隅の「角出し」がシルエットの8割を決める
いきなり真ん中に紙を突っ込む人がいますが、それは間違いです。 まずはバッグの「底の四隅」です。
バッグをひっくり返す勢いで、底のマチ(奥行き)部分の四隅に、硬めに丸めた薄葉紙をしっかりと押し込みます。ここが土台(基礎)になります。
家を建てるのと同じで、基礎がぐらついていると、どれだけ上に積み上げても形は決まりません。 四隅がピシッと出ることで、バッグ全体に安定感が生まれ、置いた時の座りが良くなります。
ステップ2:中心部は「ミルフィーユ構造」で密度を調整する
土台ができたら、メインの空間を埋めていきます。 ここで重要なのは「一つの大きな塊」を入れないこと。 薄葉紙を何枚も使い、層を作るように入れていきます。これを私は「ミルフィーユ構造」と呼んでいます。
- 中心部:ある程度密度のある塊を入れる。
- 外側(革に触れる部分):広げた薄葉紙や、柔らかく丸めた紙を配置する。
こうすることで、外側からの手触りで微調整が可能になります。「右上が少し凹んでいるな」と思ったら、層の間に一枚紙を差し込めばいい。大きな塊だと、一度全部出さないと修正できません。
ステップ3:表面の「張り感」は、革のシボを観察しながら微調整する
アンコを詰め終わったら、ファスナーやボタンを閉めます。 そして、ここからが本番です。 バッグの表面を指でなぞりながら、革の「シボ(表面の凹凸模様)」を観察してください。
シボが不自然に伸びきっている場所はありませんか? それは詰めすぎです。 逆に、シボが深く沈んでいる場所はありませんか? それは密度不足です。
特に、バッグの「顔」となる前面(フロントパネル)は重要です。ここが美しいアール(曲線)を描いているか、それとも平面になってしまっているか。照明を当てた時に、美しいグラデーションが出るように、内側から指で「ならす」作業を行います。マッサージをするように、中の紙の位置を微調整し、革に最適なテンションを与えます。
番外編:重力に負けるな。「持ち手」を自立させるテグスの魔法

バッグ本体が綺麗になっても、持ち手(ハンドル)がダラリと下がっていては台無しです。しかし、針金が入っていないハンドルを自立させるのは至難の業。
ここで登場するのが「テグス(釣り糸)」です。
天井やブームスタンドからテグスを垂らし、ハンドルのトップを吊ります。 ポイントは「吊り上げすぎない」こと。引っ張りすぎるとハンドルが三角形に変形し、不自然さが出ます。あくまで「重力をキャンセルする」程度に、ふわりと支えるのです。
撮影後、Photoshopでテグスを消す作業は必要ですが、これを行わないと「生き生きとしたバッグ」にはなりません。床に置かれた死んだバッグではなく、誰かが手に持っているような「気配」を演出するのです。
ライティングとアンコの密接な関係
中身がスカスカだと、ハイライトが「波打つ」現象について
なぜここまでアンコにこだわるのか。それはライティングをした瞬間に残酷なまでに結果が出るからです。
商品撮影、特に革製品の撮影においては、いかに美しい「ハイライト(光の反射)」を入れるかが勝負です。 滑らかなハイライトは、素材の上質さ、艶、高級感を伝えます。
しかし、アンコが不十分で表面が波打っていると、このハイライトがギザギザに乱れます。まるで事故を起こした車のボディのように、歪んだ光の線が入るのです。これは、どれだけ高価なカメラを使っても補正できません。
ディフューザー越しの光で「歪み」を検品する
私はセットを組む際、トレーシングペーパーやディフューザー(拡散布)を2枚噛ませた、非常に柔らかい光を作ります。
この光をバッグの斜め後ろ、あるいは真横から当て、表面の凹凸を強調させます。 これを「検品ライティング」と呼んでいます。正面からフラットな光を当てるとアラが見えなくなりますが、斜めからの光はわずかな凹みも影として描き出します。
この状態で、再度アンコの調整を行います。光を見ながら形を整える。これがプロの現場です。
F値を絞り込む(F11-F16)と、ごまかしが効かなくなる恐怖
商品撮影では、商品全体にピントを合わせるため、F値(絞り)をF11からF16程度まで絞り込むのがセオリーです。
背景をぼかして雰囲気で誤魔化す、という逃げ道はありません。
隅々まで解像する設定だからこそ、バッグの四隅の形、ハンドルのステッチ、そして革の張り感が克明に記録されます。 「後でなんとかなるだろう」という甘えは、現像ソフトを開いた瞬間に絶望へと変わります。物理的に整っていないものは、デジタルでも救えないのです。
「たかが詰め物」に、あなたの時給をいくら払っていますか?

ここまで、プロの技術をお伝えしてきました。 「なるほど、やってみよう」と思われたかもしれません。 しかし、ここで一度、冷静に経営的な計算をしてみてください。
1個20分のスタイリング×50SKU=約17時間の損失
私が解説した通りの手順(薄葉紙の準備、四隅の詰め込み、ミルフィーユ構造、微調整、テグス吊り)を、慣れていない方が行うと、1つのバッグにつき最低でも20分、こだわれば30分はかかります。
もし、今回の春商戦で50種類(SKU)のバッグを撮影するとしましょう。 20分 × 50個 = 1000分。 つまり、約17時間です。 丸2日以上、担当者であるあなたが、ただひたすらに紙を丸めてバッグに詰め続けることになります。
その間、本来やるべき販促計画の立案や、取引先との折衝はストップします。あなたの時給を考えたとき、これは果たして「コスト削減」になっているのでしょうか?
撮影後半に必ず起きる「クオリティのブレ」というリスク
さらに恐ろしいのは、疲労によるクオリティの低下です。 1個目と50個目では、集中力が違います。 「もうこれくらいでいいか」という妥協が必ず生まれます。 結果、ECサイトに並んだ時、商品の形にバラつきが出て、ブランドとしての統一感が損なわれます。 「なんか、下の方にある商品は形が悪いな」とお客様に気づかれた瞬間、ブランドの信頼度は下がります。
「自社で撮る」ことの隠れたコストを計算してみる
- 撮影機材のスペース確保
- ライティング機材の購入とセッティング
- 大量の薄葉紙の調達と廃棄
- 撮影後の画像処理(テグス消し、色調整)
- そして、何より膨大な「アンコ詰め」の時間
これらを全て内製化することは、本当に合理的でしょうか? ここで、私たちプロに任せるという選択肢を、経営判断として検討してみてください。
「物撮り.jp」という、最も合理的なアウトソーシング

もし、あなたが求めているのが、ECモール(Amazon、楽天、ZOZOなど)や自社サイトの商品ページに掲載するための、「正確で、美しく、大量の」商品写真であれば、「物撮り.jp」が最適解です。
私たちが提供するのは、単なる写真ではなく「業務の効率化」です。 熟練のスタッフが、今日お話しした「アンコ詰め」の技術を駆使し、全ての商品を均一なクオリティで、スピーディーに撮影します。
- カタログスペックの完全再現: 色味、質感、形状を忠実に再現します。お客様の手元に届いた時に「写真と違う」と言わせません。
- 圧倒的なコストパフォーマンス: システム化されたワークフローにより、高品質ながら低単価を実現しています。あなたが17時間かけて紙を丸めるコストよりも、遥かに安く済むはずです。
- 白背景・切り抜き前提: 使い勝手の良い、基本となる写真を大量に必要とする場合に最適です。
「フォトル」で実現する、ブランドの世界観作り

一方で、もしあなたが求めているのが、InstagramなどのSNSや、ブランドのトップページを飾るような「世界観」のある写真なら、「フォトル」をご指名ください。
ここでは、単に商品を説明するのではなく、そのバッグがある「生活」を切り取ります。
- スタイリングによるストーリーテリング: バッグ単体ではなく、小物を配置したり、背景を作り込んだりすることで、利用シーンを想起させます。
- ヒューマンタッチの演出: 例えば、バッグに手だけを添える、椅子に無造作に置くなど、人間の気配を感じさせる演出(モデルの手配やスタイリング提案も含む)により、見る人の所有欲を刺激します。
- リッチコンテンツ: 「いいバッグだな」と思わせるだけでなく、「このバッグを持って出かけたい」と思わせる。情緒的な価値を視覚化します。
まとめ
春のバッグ撮影において、成否を分けるのはカメラの性能ではなく、「アンコによる下準備」です。
- 素材選び: 新聞紙やプチプチは捨て、薄葉紙を使う。
- 土台作り: 四隅の角をしっかり出し、底を安定させる。
- 密度調整: 中心はミルフィーユ状に、表面は革の張りを見ながら微調整する。
- 仕上げ: ハンドルはテグスで吊り、重力をキャンセルする。
この工程を、全ての在庫に対して完璧に行うには、熟練の技術と膨大な根気が必要です。
もし、あなたが「商品を売る」ことに集中したいのであれば、撮影という「作業」は私たちプロにお任せください。 あなたのバッグが持つ本来の美しさを、私たちが120%引き出してみせます。
撮影ブースの奥で、大量の薄葉紙と共に、篠原がお待ちしております。


